「基本動作完成」モデルガンカートリッジ自動組立機開発~その5:軌跡~
人類初(?)の、「モデルガンカートリッジを機械が自動で組み立てる」機械の試作テスト、
を行ってから約4か月後の5/31。
ついに、モデルガンカートリッジ自動組立機において、複数個のカートリッジを自動で組み立てることに成功しました。
この記事では、前回2019/1/26の1個のみ組み立てる試作品の記事からこれまでの開発の軌跡をご紹介していきたいとおもいます。
「1個」から「複数個」へ
2個でやってみよう
1個で成功したので、まずは2個に増やしてみました。
この2個はのちのことを考えて、手作りではなくより正確な方法で作ることにしました。
これは、手作りだと、上手くいかなかったときに「手作りの加工精度が悪い」という可能性を考えに入れなきゃいけないため、それをなくしたかったからです。
これ以降のジグ加工には、これをつかいました。
ORIGINAL MINDという長野県 諏訪のメーカーが製造・販売している卓上CNC組立キット、KitMillを組み立てたものです。
ネットで見たときどうしても欲しくなって、社会人一年目の時に清水の舞台から飛び降りる覚悟で買いました。
それが、こんな形で生きてくるとは・・・。
この機械は基本的にコンピューター制御でして、コンピューターで図面を描いて、それから軌道データを作って、入力すればその通りに加工してくれます。
これでカートリッジやキャップ火薬やプライマーを置くジグを作り、設置したところ、XYの停止点とカートリッジなどをおくテーブルでズレがあることがわかりました。
そこで、センサーを取り付けているパーツを長穴加工し、位置を調整できるようにしました。
これで、X、Y軸の停止位置を大まかに調整することができます。
この状態でプログラム作成・試験を行い、2個で上手く動作することを確認しました。
たくさん増やした
2個が上手く行ったので、次はたくさんに増やしました。
グリッパーがY軸方向に長いことを考慮し、カートリッジを詰め込める最大量まで詰め込む設計にしました。
ところがたくさん問題が発生・・・
- キャップ火薬がかなり傾いてカートリッジに入る
- プライマーがカートリッジ入り口で傾いて引っかかる
そして、最大の問題が、「XY軸位置がズレる」
ご覧のとおり、グリッパ中心軸とプライマー中心軸がズレています。
ここまでズレてしまうと、センサーの長穴では対応できません。
位置ズレとの戦い
ジグの作り直し、ガタの矯正
この現象は、このジグ設計において、プライマーとキャップ火薬をカートリッジに運ぶために頻繁に往復するX軸で頻発しました。
このX軸、Z軸の機構一式を背負いながら移動するため、各軸の中で負荷が最も大きい軸です。
この点、グリッパーはY軸方向に長いので、Y軸側に多少ズレても余裕があります。
そこで、X軸位置ズレをしても対応できるように、一列ずつジグを分割しました。
また、各軸モーター軸に、軸方向のガタがあることも発見しました。
左右に動くたびにここがズレるため、位置ズレの原因になります。
そこで、ワッシャーをかませてガタをなくしました。
モータードライバー変更
ここまで使用していたモーターを駆動する専用回路、モータードライバーは、東芝製のTA7291Pというもので安くて使いやすものの性能がよくありません。
特に、ブレーキ性能があまりよくなく、目標位置に到達しても、ぴたりとモータを止めることができませんでした。
そこで、変更しました。
秋葉原の秋月電子通商で販売しているモータードライバーキットを組み立てたものです。ブレーキの利きが良い(オン抵抗が低い)FETを使用したドライバーで、これによりズレが少なくなり、キュッとモータが止まるようになりました。
キャップ火薬傾き問題
さきほどの画像の通り、位置ズレによって、キャップ火薬やプライマーが斜めに入ることがランダムで発生します。
こちらの問題、木の棒で作った安定化ジグでプライマーは何とかしていました。
しかし、キャップ火薬をどうすればいいか、かなり悩みましたが、単純に安定化ジグを長くすることでプライマーごとキャップ火薬が水平になることに気付き、実験したところ、上手くいきました。
この問題は会社の行きかえりの車の中や、風呂のなか、トイレの中で四六時中考えていたら、2週間くらいで思いつきました。やみくもにやるよりも、考えてづけるのって大事だなと感じました。
並べ方を変えた
しかし、ここまでしてもX軸のズレは頻繁に発生しました。
このジグの設計では、X軸が頻繁に移動するため、位置ずれが発生する可能性が高くなります。
そこで、Y軸方向が頻繁に動くようにジグを作り直しました。(これがなかなか骨で、図面作成~加工~仕上げ~プログラム変更まで一週間くらいかかりました)
これで、うまくいくようになりました。
大挫折
ザ・見落とし
「これでいける!!」そう確信して、新品のカートリッジに新品のキャップ火薬を使用して試験を行ったところ、キャップ火薬の装填が上手くいきませんでした。
今までは使用済みのカートリッジと使用済みの空キャップ火薬を使って実験を繰り返していました。
つまり、発火によるカート内壁の拡張+空キャップのサイズ縮小により、摩擦が少ない状態で試験を繰り返していたのです。
しかし、新品同士の組み合わせだと摩擦が大きくなり、より強い力が必要となり、上手くキャップ火薬を押し込めなくなったのです。
剛性との戦い
とにかく補強を打ちまくる
上手くいかなかったのは、新品同士の組み合わせによる、強い摩擦力によって、各部品がたわみ力が逃げてしまったのが原因です。
構造材として使用しているタミヤのユニバーサルプレートは、汎用性が抜群ですが、小さい子供でも加工できるよう、柔らかいABS樹脂でつくられています。
よって、力が加わるとすぐたわみます。
そこで、そこら中に補強材を組み込み、変形を抑え込む工夫をしました。
ローダーよ、たわむな
ローダーはちょちんアンコウのように前に突き出す形で設置していましたが、前に長く伸びていて、力を加えているZ軸のモーター軸から離れていることもあり、たわみやすくなっていました。
これをサーボによる可動式にし、Z軸のモーター軸に近づけることで剛性を確保しました。
サーボにより、使用しないときは引っ込み、グリッパーによるキャップ火薬やプライマーの運搬を妨げないようになっています。
また、ローダーもDMM.make製の材質PA12という固いものにして、たわみにくいようにしました。(このためにFusion360という3DCADを導入し、3Dモデルを作成、発注しました)
無限ループ「たわむ→センサ逸脱→位置ズレ」
さて、剛性はアップしましたが、今度は反力でZ、X軸ごと持ち上がり、センサーが定位置を逸脱。それにより位置を誤認識し、位置ズレが発生しました。
さらに、力が逃げるため、キャップ火薬も中途半端に押し込まれてしまう・・・
持ち上げを防止するため、ローラで支えさせたりしましたが、今度はモータ固定部を軸にZ軸が反る現象が発生。このときにセンサーが位置を誤認識し、位置ズレが発生・・・
反っても支えられるようにローラーを付けたりもしましたが、そもそも可動部なのでそこまでぴっちり支えられない・・・
一旦手を引いた・・・
この時点で何回も何回も全体試験をしていて、うまくいったり、いかなかったりを繰り返していました。
・・・正直、八方ふさがりでした。
「オレには無理なのか」
という思いがぐるぐるまわり、精神的にはかなりきつい状態。
「こんな状態で考えていてもらちが明かない」
ということで、少し、開発をはなれてみることにしました。
ローダーテーブル導入
「困難は分割せよ」
これ、大学受験時の塾の恩師の言葉です。
なにか、困難にぶつかると、この言葉がぐるぐる回ります。
ちなみに、この言葉は、
「問題をそのまま解決しようとすると、とてつもなく大変に思えるけど、
問題っていうのは実は小さな問題が集まったもの。
だから、細かく分けて一つずつ乗り越えていけば
必ず解決できるよ」
という意味です。
組立機に触らない日を作って、頭と心に余裕が戻ってきたときに、なんとなくこの言葉を回しながら解決方法を考えてみていました。
・・・アイデアって、こういう「限界まで考え抜いてから、気を抜いたときにふっと思いつく」ものです。
「あ、そうか。力がかかる仕事を別の機械にやらせればいいんだ」
ということを思いつきました。
これにより、「キャップ火薬を押し込むだけのユニット」ローダーテーブルを追加しました。
完成
ローダーテーブルは上下に動けばいいので、上下のスイッチによる位置検出で十分に位置がわかります。
モーター速度もブレーキ性能など考えなくていいので、限界まで上げています。
単体でプログラムし試験してみると一日でうまくいきました。(組立には会社のある平日で1週間くらいかかりましたが)
そして、自動組立機に組み込んで全体テスト。
今回は本番前に3回ほど全体試運転をして、それから本番にのぞみました。
それでも、本番では、ローダージグがいつの間にかズレていたりしたが、直しました。
そして、完成に至ったのです。
18発、組立ができ、発火も無事行うこともできました。
苦戦したキャップ火薬も奥までしっかり押し込めております。
動作がわかりにくいと思うので、1発にプログラム変更した動画も撮影しております。
今後
今回の完成は、「オープンカートリッジを組み立てる基本動作を確実にこなす」ことを目的にした完成です。
そのため、速度は完全に犠牲にしており、18発組み立てるのに約2時間かかっております。
なので、iPhoneのタイムラプス機能を使って、早送りで撮影しております。
これは、「そもそも基本的な動きができていないことを早くするなんてことは不可能」という、スポーツや仕事にも当てはまる考えからです。
しかし、今回で基本動作を完成できました。
そこで、まずは高速化を目指します。
これはモーターの速度制御、つまり「目標まで位置が遠いときは全速で走り、目標に近付いたら速度を落として、ピタッととまる」という、自動車や電車と同じような動作をプログラムすることで完成できます。
使用しているモータードライバーの仕様上、一部回路変更を伴う予定ですが、基本的には速度制御プログラムの追加だけで実現できるともくろんでいます。(「どれくらい手前から減速をかけるか」は実験が必要ですが)
目標はYoutubeにアップできるくらい(10~15分)の時間で組み立て完了です。
他には、
- ねじ込み機を導入して、閉鎖系カートリッジも組立できるようにする
- 位置検出を従来のユニバーサルプレートの穴を数える方式から高度化、高精度化する。赤外線測距センサーの導入など。(これは、高速化の際に必要になる可能性もあります)
などです。
将来的には200発以上所有しているタニオ・コバM4MGカートリッジ組み立てを自動化したいです。(悲願)
・・・というか、この組立機をつくろうとしたきっかけはこのせいだったりします。(プロフィールを参照)
出来れば、各社のカートリッジをジグの入れ替えなどで組み立てできるようにしたいです。
さらに将来的には、カートを入れると勝手にサイズをはかって、勝手に組み立ててくれる装置を目指したいです。(かなーり先になると思いますが)
P.S.成功は起こるべくして起こる
これは、大学時代や、現在の仕事、そして今回の開発でも感じたことなのですが、
漫画やアニメや映画のような
「この方法でいいかよくわからないけど、たくさんたくさん努力して一発で成功する」ことって、
すごく夢があってドキドキするけど・・・正直、ないんだなって。
現実は、これよりももっと泥臭くて、
「この方法でいいか」考えて考えて、
「即実行」してみて失敗して、
「なんで!?」と考えて、
「これならいける!」と対策し、
また失敗して・・・
その過程で「最適解」が見えてくる。
「最適解」が見えたときは、「もうこれなら絶対うまくいく」ってわかっていて、それが当たり前になっている。
「ふとんをかぶるとあったかい」くらい当たり前になっている。
だから、上手くいっても大喜びはしない。
ただ、静かな、じんわりとした感動が心に広がっていく。
場合によっては、目頭がじんわり、熱くなったりする。
だから、何かをやるときは準備と繰り返し試すスピードが大事。
頭で悩んでるより即試したほうが結果がでて次に進みやすいのです。
これ、実は、正解というのが決まっている、学校で習ってきた勉強とまるっきり逆で、
「正解のない」学校の外では、こんな試行錯誤の泥んこだらけな考え方のほうが、
早く「最適解」にたどりつくのです。
だから、成功というのは、
「泥んこになりながら、
頭を全力で使って突き進む方向を考えて、
どんどん試行錯誤して、
できるまであきらめず
それを繰り返したときのみ掴めるもの」
なのかなと、今回の開発で体感できたのが、最大の収穫です。
今後とも、理想の組み立て機を目指し、開発を継続していきます。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
モデルガンのブログを検索していて、たまたま拝見しました。
発火性能についてデータを基に検証されていて、とても素晴らしい記事だと思いました。
カートリッジの自動装填機の記事はNHKのプロジェクトXを連想してしまいました。「問題は分割せよ」の言葉には感銘を受けました。
モデルガンはメーカー各社の経営者(=開発者)の高齢化に伴いあと10年ほどで新製品の開発が止まってしまうのではと危惧しております。
私も中学生の頃からモデルガンに興味を持ち、以来35年趣味としております。
今後も楽しみに拝見させていただきますので宜しくお願いします。
コメントいただきありがとうございます。
データ検証やカートリッジ自動組み立て機をお褒めいただきありがとうございます。
メーカー各社の内部事情はそこまで詳しくないのですが、
やはり売れないモデルガンの技術継承はなされない方向なんですね。
この状況では、自作できるようになるしかないかなぁ、とも思います。
実は公式ツイッターもやっております。
https://twitter.com/@shomg4
ツイッターでは無料の3DCADや、3Dプリントサービスなどを使って
モデルガンを自作されている方がいらっしゃいます。
中にはタニオ・コバのGM−7の使い捨てカートを利用して
サブマシンガンを自作されている方もいます。
なんだかすごい時代になったと感じています。